第5回 ペット飼育禁止に違反するとどうなる?!

少子化と反比例するかのように最近は空前のペットブームですので、犬や猫などのペットを飼育されている方や飼育を始めたいと考えている方は少なくないと思います。ですが、そもそも、ペット飼育禁止のマンションは今でも少なくなく、ペットの飼育をする際にはペット飼育可能な物件なのかどうかを確認することは不可欠です。

住居におけるペットの飼育について一律に規制する法律はありませんので、賃貸借契約やマンション管理規約によって飼育が規制されているかどうかが肝心になります。賃貸物件と分譲物件では規制方法が異なりますので、分けて考えてみましょう。

まず、賃貸物件の場合、賃貸借契約や規則・規約でペット飼育禁止とされている物件ではペットを飼育することはできません。それにもかかわらず、大家さんに内緒でペットを飼育している場合には賃貸借契約違反になりますので、契約違反を理由に退去を求められても文句を言うことはできません。それどころか、飼育していたペットが部屋の壁紙や柱、ドアなどを傷つけてしまったり、ペットの臭いが部屋に染みついてしまった場合などは、通常想定されている原状回復費用以上の多額の費用を要求されることもあります。契約時に大家さんに預けていた敷金だけでは原状回復費用に足りないときには、不足額について損害賠償請求をされることもあります。もちろん、このような原状回復費用負担の問題は、ペット飼育禁止物件に限られたものではなく、ペット飼育OKの物件であっても同様に発生します。ただ、最近のペット飼育OKの物件では、飼育されているペットによる汚れや傷をできるだけ防止するため、初めから傷つきにくい壁紙やドアが使用されていたり、防臭素材の壁紙が使用されている物件もありますので、そのような物件を探すことができれば原状回復費用も一定程度に抑えることができるでしょう。

このように、契約時からペットの飼育が許されているのかどうか確認すべきことはもちろん、賃貸物件の内部仕様や契約終了時の原状回復義務の範囲などについて、予め確認しておくことが将来のトラブル防止のためには有効です。

次に、分譲物件のうち、一戸建ての場合には、屋内での飼育については第三者との関係では問題がないと言ってよいでしょうが、屋内で飼育する場合でも鳴き声や抜け毛、散歩のマナーを守ることは当然必要でしょう。屋外で飼育する場合には、屋内飼育の場合よりも一層、ご近所への配慮は必要になります。そろそろ暑くなって来ましたので窓を開放する機会も多くなりますが、飼い主以外のご近所さんにとっては、屋外飼育のペットの臭いは意外に気になるものです。ご近所なのでなかなか口に出すことはできないでしょうから、飼い主さんの方で鳴き声、臭い、抜け毛などについて気遣いすることが求められます。

最後に、分譲マンションの場合には、ペットが飼育できるかどうかは各々のマンションの管理規約によって決められています。分譲マンションの管理規約は、いわばそのマンションの法律といっても過言ではありません。そのマンションに住む人は管理規約を守らなければなりませんので、管理規約でペット飼育が禁止されている以上、いくら自分で購入した居室だからといって、飼育することはできません。そのような管理規約がすでにあるマンションに後から入居した人であっても、そのマンションの管理規約には拘束されます。よく、「うちのワンちゃんは吠えない大人しい子なので、ご近所には迷惑はかけていないわ。」とか、「ほかにもペットを飼っている人がいるから、うちだけが悪いのではない。」、「猫ちゃんだからマンションの共用部分には出さないから大丈夫。」などと独自の解釈をされている方がいます。私自身もペット愛好派で実際に犬を飼育していますので、飼っているペット(パートナー)を家族のように大切にする気持ちはもちろん理解できます。しかし、ペットの種類や性格いかんにかかわらず、管理規約でペット飼育自体が禁止されている以上、どんなに大人しいペットであっても禁止は禁止なのです。もちろん、盲導犬のように居住している人の生活や生存に不可欠な動物については、例外が認められています。

管理規約に違反してペットを飼育していることが見つかってしまった場合には、管理組合からペットの飼育を止めるように指示される場合もあり、また、その指示に従わず、飼育によってマンション住民に多大な迷惑をかけているような場合には、マンションから退去を求められることさえあります。最近では、中古マンションを販売しようと躍起になっている不動産会社が、実際には管理規約でペット飼育禁止であるにもかかわらず、ペット飼育ができるなどと顧客に説明していたため、説明を聞いて購入した居住者と既存の居住者との間でペット飼育を巡ってトラブルになるケースも散見されています。ペット飼育可であると信用してマンションを購入した居住者が不動産会社を相手に損害賠償を求めてみたところで、ペット飼育可と言ったとか言ってないとかいう問題にもつれこむことは目に見えています。中古マンションを購入しようとする場合には、予めマンションの管理規約を確認させてもらえるようお願いするなど、購入者自身が自分の目で確認することが必要でしょう。

ところで、マンションの管理規約は、マンションの居室を所有している人の4分の3の賛成があれば変更することもできますので、今までペット飼育禁止のマンションであっても、時代の変遷に伴い、4分の3以上の賛成が得られれば管理規約をペット飼育可能に変更することは可能です。管理規約や管理規約に準ずるペット飼育細則では、飼育の可否だけではなく、共用部分ではペットをケージに入れたり飼い主が抱きかかえなければならない等のルールを決めることもできますし、ペットのサイズや頭数について制限を細かく設けることもできますので、ペット飼育許可に反対する住民の意見にも配慮しながら、賛成住民と反対住民の意見を調整して、そのマンション住民にとって最も適切な管理規約・ペット飼育細則を設けることが重要ではないでしょうか。

マンションは共同の生活の場です。ペットを飼う人も、飼っていない人も、互いに配慮し合って気持ちよく生活できることが理想ですね。

林 眞紀世

プロフィール
林 眞紀世 / 弁護士

札幌弁護士会に所属する弁護士。民間航空会社勤務を経て、平成15年から弁護士に登録。平成18年10月からはパークフロント法律事務所を開業。当時は、北海道初の女性弁護士2人の共同法律事務所だったことが話題に。一般の方から企業まで、幅広く一般民事、企業経営に関する事件、親族間の事件などに取り組んでいる。

イントロダクション
法律は難しいとか、法律事務所は敷居が高いなどとよく言われますが、「難しいこともできるだけわかり易く」をモットーに日々取り組んでいます。このコラムでは、住宅や不動産などにまつわる法律問題にわかりやすく触れていきたいと思います。